東大病院の結果をもってM病院へ(その2)
とうとう,私の名前が呼ばれました。
部屋に入るとI先生は東大からのお手紙を読んでいました。
「ああ。読んでる。どう思うかな。」
と思っていると,手紙から顔を上げて私の方を向き,
「よかったじゃない!!本当によかったよ。予想外の展開だよね。」
「やっぱり東大は凄いわ。僕が癌学会で見たCT画像をパソコンで処理して場所を正確に特定する方法,たぶんやると思うよ。」
「この病院ではここまでできないんだよね。」
「ここはやっぱり救急病院だから,何の準備もなくどんな患者さんの手術もやらなければいけない」
「しかし東大病院はとても難しい患者ばかりだろうけど,万全の準備をしてチームで手術に挑む」
「病院としての立ち位置が全く違うんだよね。」
「そういう意味ではあなたは東大病院に移ってよかった。移るべきだよ。」
このように言ってくださったのです。
私は思わず泣きそうになりました。(泣きませんでしたが)
感激しました。
私が心配していた事はとても浅はかで,I先生は本当によかったと思ってくださったのです。
I先生のあの言葉は強がりとか,言い訳とかではありませんでした。
そういう匂いは私は鋭くキャッチするのです。
I先生は心から喜んでくれていたのです。
小さい子供のいるお母さんである私の幸せを考えていてくれたのです。
I先生の方から
「じゃあアバスチンはだめだよね。フォルフィリだけやる? 国土先生なんておっしゃってた?」
と尋ねられたので,堂々と
「抗がん剤は中止するように言われました。」
と答えました。
I先生は
「そうか。それじゃあこれで当分こっち(M病院)には来ないね。手術がうまくいくことを祈っているよ。」
とおっしゃいました。
私は急に寂しくなって
「先生,頑張ってきます。握手してくださいますか?」
と言って握手してもらいました。
I先生は緊急入院してそのまま手術の時,不安でいっぱいの私に「大丈夫だから」と握手してくださいました。
あの時を思い出したのです。
そして病室を後にして深々とお辞儀をして会計を済ませて帰りました。
帰るときもつくばM病院の玄関のところで深々とお辞儀をしました。
一つのステージが終わり,次のステージに行くのだと思いました。