やっと聞き出した東大病院(その2)
「先生。私,東大病院で診察を受けようと思います。紹介状を書いてください。」
この言葉を発するのにものすごくエネルギーがいりました。
色々な感情がわいてきました。
I先生に申し訳ない。
だましたみたいだ。
だましてとんずらするみたいだ。
I先生に「先生には期待できないからよそに行くわ」と思われたらどうしよう。
というかそう思ってるでしょう。私。
いや。そんなことは思ってない。
というか私は死が差し迫っているのに何を遠慮しているのか。
I先生,大好きなんだけど。
でも,好きだからと言ってここに居続けて死んでしまったら,結局恨むよね。
このような感情がぐわーっとわいて来て,手も声も震えながら,
「先生。私,東大病院で診察を受けようと思います。紹介状を書いてください。」
と言ったのです。
I先生は
「・・・。最初から聞き出そうとしてたの?言っとくけど僕ならってことだからね。東大病院は。」
「まあ。紹介状を書くのはいいけど・・・。」
「僕ならという話だったんだよ。あなたは肝臓に転移した癌が下大静脈にほぼくっついている感じだからとても難しいと思うよ。」
と苦虫をかんだようにおっしゃって,しぶしぶ紹介状を書いてくださることになりました。
しかししばらく沈黙した後I先生は,
「東大病院の国土先生のところに行きなさい。なんとお読みするのかわからないけど漢字は覚えているんだ。」
「うん。何かいい展開になるかもしれない。必ず国土先生の名前を出してね。くにど?こくど?どうお読みするのかな。」
私は感激しました。
「I先生ありがとうございます!この御恩は一生忘れません。」
と言って深々とお礼をして診察室を出ました。