忘れられない東大病院での同室の3人。
1日を生き抜くのが大変で,でも何をやっているかといったら大したことをやっていません。
トイレに行くとか水を飲むとかシャワーを浴びるとかそんなことです。
「きつーっ。もうやってられん!」
こう考えだすときつい,きつい,きつい・・・になってしまうので,ベットにいるときは違うことを考えることにしました。
手術のたびに持ってきている私のお気に入りの本「いつでも引き寄せの法則 願いをかなえる365の方法」。
この美しい絵をながめました。
いつもならこの絵を眺めているといい気分がしてきて本に入り込めるのに今回ははまり込めません。
硬膜外麻酔を抜いたため常に痛いというのが原因だと思います。
そんな時,隣のベットの人が帰ってきました。
彼女は2日ほどいなかったと思ったら,また戻ってきたのです。
しかし,ベット前の名前が違っていたので,違う人が来ると思っていたのです。
私は少し驚いて,「あれ,名前?」とつぶやくと,
「ええ。結婚してきたんです。」
「え?結婚?」
「そうです。結婚して○○という名前になりました。よろしくお願いします。」
そして彼女は他の2人にも挨拶をしました。
「結婚して名前が○○に変わりました。よろしくお願いします。」
みんなで「おめでとう!」「おめでとう!」と喜び合いました。
でも,私の頭の中は???でした。
彼女の肝臓の癌はかなり複雑でしかも進行しているのです。
これまで2,3回本手術をするための予備の手術を行っています。
そしていよいよ今回本手術なのです。
彼女は大学を出て働き始めたばかりです。
なんでこんなに若い人が聞いたこともない複雑な肝臓の癌になるのかやるせない気持ちでした。
彼女自身も,お母さんも,彼氏も半分はあきらめているように見えました。
しかし,突然結婚してきたのです。
なぜ??
生きる事に焦点を合わせたのか?
死ぬことを前提に人生最大の喜びを味わうことにしたのか?
それとも,そのどちらも考えているのか?
私の頭は混乱しました。
それまでトイレに行くのも必死で,自分が今日生き抜く事に全力を注いできたのに。
私の中に他人の苦しみや喜びを感じ取るスペースができたのです。
そのスペースにまず入ってきたのはこの結婚してきた彼女でした。